昆虫採集とは
昆虫の乾燥標本を集める趣味は、歴史が長い。
研究者であっても、趣味として昆虫のコレクションを行っているものも珍しくないようです。
ヨーロッパでは貴族的な趣味の一つと見なされているようです。
そのための専用の昆虫採集人という職業があるほどです。
そのようなコレクションが、博物学やその系譜を引く分類学を支えてきた面もあります。
世界のノミの分類学研究は、世界中のノミの標本を網羅したナサニエルと、父のコレクションを整理研究したミリアムの功績にって大成されたのです。
昆虫は圧倒的に種類数が多く、多様であるので、すべてを集め尽くすのはほぼ不可能かもしれません。
また、地方変異や個体変異など、並べて比べる楽しみもあり、宝石並みの美しさを持つものや、奇妙な姿のものもあります。
虫を追っかける狩猟的行為そのものを目的とする原始的な楽しみ、という面もあるでしょう。
何でも集める人もいるが、多くの人は特定の分類群に情熱を集中します。
特にチョウは一番の人気を誇り、その知識の集積はすさまじいものがあります。
これまで蓄積された学術情報の密度が極めて高く、たとえば蝶の標本1つから、それが世界中のどの島のものか、どの季節に取れたのかがわかる場合があるほどです。
対照的に、ガは人気が低く、ごく一部の根強いコレクターがいるばかりであった。
最近ではチョウの学術的解明が進んだため、研究志向の愛好家は対象をガに移行させる傾向が見られます。
それでも標本づくりに特殊なテクニックを要する小蛾類の愛好家はあまり増えていないです。
昆虫採集の準備
昆虫採集を行うには、それなりの場所へいきますよね。
必ずしも遠くへ行く必要はありませんが、身近で採集できるものは限られています。
それでもたまには近所で珍品に出くわす場合もあるので、いつでも最小限の採集用具を持つのは、採集家のたしなみです。
本格的に採集に出かける場合は、当然ながら、野外活動の身支度とともに、採集用具をひっさげて出かける。道具は対象分野によって様々です。
プロとアマチュア双方の世界に採集者が多くいるため、採集や標本作製のための様々な道具もある程度の市場規模が期待できます。
そのため、昆虫採集専門に工夫されたの器具類の開発が進んでおり、研究用機器としては比較的安価に市販もされている。
捕虫網(ほちゅうもう)はどの分類群に対しても使われる。
飛ぶ昆虫、チョウやトンボを追っかけるには必須ですが、飛ばないものが相手でも、見つけたときに落ちて逃げるのを防ぐために下に受けるとか、藪を薙いで目につかない虫を集めるなどというふうにも使います。
一般の玩具として売られているものは、枠が柔らかい針金でできているので、枝などに当たれば曲がってしまいます。
専門的なものでは、スプリングが効いて丸く畳めるものや、4つ折にできるものなど、丈夫で、しかも持ち運びの便利なものがある。
直径は50~60cm程度のものが普通である。
竿の部分は網の部分を折りたためばポケットに収納できる程度の短いものから、繰り出し式になっていて、のばせば10mなどというのもあります。
昆虫採集、標本の心得
昆虫を標本にする場合、、普通は殺したものを形を整え、乾燥させて保存する。
昆虫の乾燥標本は、比較的色もよく残り、形も崩れないが、コナチャタテやカツオブシムシなど乾燥動植物質を餌とする昆虫に食われやすく、保存には注意が必要です。
幼虫など体の柔らかいものは、アルコールに漬けるなど、液浸標本とすることもあります。
しかし、それは研究目的の場合であり、通常の趣味レベルの昆虫採集という言葉で表される内容としては、含みません。
昆虫の乾燥標本は、比較的簡単に作れるが、見栄えのよいものを作るにはそれなりの技術があり、そのための器具も開発されています。
チョウ、ガなど、羽が大きくて模様のあるものは、羽を広げて形を整える。これを展翅といいます。
展翅のためには、展翅版を使います。長方形の板の両端に短い柱を立て、そこに真ん中に隙間を空けて2枚の細い長方形の板を、底板から浮かせて乗せた物です。
チョウの胴体に針を刺し、これを2枚の板の隙間に差し込む。
羽を広げて、両側の板に形よく止め、乾燥させるわけです。
この際、羽には手を触れないよう、針先で羽を広げ、羽の上にパラフィン紙のリボンをのせ、その紙を押さえることで形を決めます。
羽に針を刺すと傷が付くからです。
ハチやハエ・アブでは見栄えをよくするためには展翅して標本をつくることがしばしば行われるが、そうすると同定に必要な形質で見えにくい部分が多くなってしまい、学術研究にはあまり適さない標本になってしまいます。
昆虫標本の方法
昆虫標本は、針を刺して箱に収めます。
針は専用の昆虫針という物があり、太さも各種そろっています。
大気の乾燥したヨーロッパでは伝統的に鋭い鋼鉄製の黒針が多く使われてきたが、湿潤で鉄の錆びやすい日本では鋭さでは鋼鉄製に劣るものの、錆のリスクがないステンレス製の針が使われています。
針を刺す位置は、チョウ、ガ、ゴキブリなどを除くと正中線上の形質を破壊しないように胸の中程の右側寄りとするものが多いです。
針の刺せない小さな昆虫は、厚紙や厚手のケント紙を小さく三角形に切り出し、その先端に接着剤で止め、その台紙に針を通す。
接着剤には日本では古くはアラビアゴムに類似したトラカントゴムが使われてきたが、今日では酢酸ビニルエマルジョン系の接着剤を使うことが多いようです。
ヨーロッパでは伝統的に膠が使われ、標本の精査用に台紙から取り外すときに湯で簡単に溶かすことができるため、近年になって日本でも使用者が増えてきている。
小さな紙に採集年月日、採集地点、採集者などのデータを記入し、標本を通した針に刺してその下につける。このデータラベルが欠如した標本は学術的価値が失われてしまいます。
場合によっては名前等を記したラベルをさらに追加します。
同定により判明した学名、和名、同定者、同定年月日などを記したラベルを同定ラベルと呼び、研究の進展や誤同定の訂正によって新たな同定ラベルが付されるときは、その標本の研究履歴を明らかにするため、古い同定ラベルをはずさずに、新たな同定ラベルを加えるのが研究上の約束事となっています。
昆虫採集の標本(箱)
標本を収める箱も、標本を食う虫が入らないよう、桐などの木製で密封できるきっちりとした物が販売されていますが、よい物は高価です。
しかし、ヨーロッパと比較して高温多湿であるために虫害、カビ害の著しい日本では、この標本箱の吟味が欠かせません。
ヨーロッパの博物館などでは日本なら子供の玩具的な標本箱とみなされているボール紙製の標本箱が普通に使われていると言われています。
こうした針刺し乾燥標本は昆虫の標本の保存法としては簡易であるとともに、保存性も極めて高い。
数百年前の標本ですら、十分今日の分類学研究に役立つほどです。
このように昆虫は観賞用と学術研究用の両方の用途に堪える質の高い標本が針刺し乾燥標本という形で簡易に作製できることに特徴があります。
観賞用と学術用の標本が両立する動物は、他には軟体動物の貝殻標本や哺乳類や鳥類の剥製標本があるが、剥製は採集、標本作製双方に手間と費用が大幅にかかります。
結局のところ、趣味と学術の両方にまたがる生物標本蒐集が裾野の広い趣味として成立するのは、昆虫以外では貝類採集ぐらいです。
昆虫採集家の論評
以前昆虫採集のために貴重な昆虫が絶滅する、と言う論が行われたことがあります。
そのような場合、昆虫採集家は、大規模な環境破壊、たとえば森を切り崩しての土地開発の方が遙かにひどいものであり、多くの貴重な昆虫の減少の原因はそこにある、
人間が捕まえる量はたかが知れていて、すぐに再生するものだという風に言い返すのが常でした。
これは確かにその通りで、普通に捕まえる限り、普通の昆虫は減少するものではありません。
しかしながら、熱狂的なマニアの中には、普通でない昆虫に対して、普通の捕まえ方をしない人もいます。
たとえば、産地が限定されているチョウの幼虫を捕るために、食草の樹木を切り倒したとか、某島に特産の大木の洞にだけ住んでいるコガネムシを捕るために、チェーンソーで洞を切り広げて生活場所である腐植の堆積物を全部掻き出したとか、とんでもない話が報道されているのみならず、現実に行われた実態が保全生態学の研究者からも報告されています。
このような人物にとっては、目的の昆虫の数が減ることは、手元の標本の希少価値が高まるのでうれしいらしいです。いくら昆虫採集とはいえ、節度は守るべきですよね。
また、環境破壊により極端に生息数が減少した昆虫の中には全国から愛好家が集中して採集を行うこと自体かなり強い圧力になってしまうものも現れています。
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